今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。
より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。
1.はじめに
本エントリーは2019年2月に投稿した記事のアップデートとなります。ここでは、RiskStreamの近況を取り上げます。ユースケースの説明などは前回の記事をご参照下さい。
概要のみ紹介すると、RiskStreamとはThe Institutesが主導する米国保険業界のブロックチェーンコンソーシアムです。業界全体の効率化を目的としております。Canopyというフレームワーク(共通基盤)の上に、多種多様なアプリケーションを実装予定です。ブロックチェーン基盤としてCordaを採用しております。
RiskStreamのエコシステムは40社以上の損害保険会社及び生命保険会社で成り立っています。これは保険業界で最大規模のコンソーシアムです。
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将来的に30のユースケースの実装を検討していますが、現在は主に保険証明(Verification of Proof of Insurance)と事故情報共有(Data Sharing: First Notice of Loss)のアプリケーションを開発中であり、この2つは2020年の商用化を予定しています。デモビデオがあるので是非ご覧下さい。
約1年の間に主に以下の進捗がありました。
2019年5月:「RiskBlock」から「RiskStream」に名称を変更。
2019年8月:開発中のアプリケーションを導入した際の経済効果を発表。
2019年10月:Canopyフレームワークのシステムテストを無事に終了。
2020年2月:Canopyフレームワークの運用テストを無事に終了。
今回はこの4つの事柄について、英文のプレスリリースとニュースを翻訳する形で説明しようと思います。
2. 名称をRiskStreamに変更
2019年5月にコンソーシアム名を「RiskBlock Alliance」から「Institutes RiskStream Collaborative」に変更しました。RiskStreamという単語には、組織間の障壁を取り除き、リスク管理と保険業務を円滑に行うためのソリューションを提供するというコンソーシアムの目的が意味として込められています。また、効率を高めることにより、保険契約者の満足度にも寄与するとしています。
(原文は以下のリンクを参照)
3. アプリケーションの経済効果を発表
RiskStreamは2019年8月に開発中の保険証明と事故情報共有のアプリケーションを導入した場合の経済効果を調査しました。米国市場で実装すると、1年目に1,900万ドルから6,800万ドル、2年目に6,000万ドルから1億9,000万ドル、3年目に9,900万ドルから2億7,700万ドルのコストを削減できるとしています。この予測値は保険会社の導入率が考慮されており、1年目は22%、2年目は59%、3年目は80%を前提として置いています。経済効果の内訳をカテゴリー別に記載します。
まず保険証明による経済効果ですが、システムが合理化されることによるコスト削減がほとんどを占めます。これまでは州ごとがシステムを開発・運用しており、保険会社はそれぞれに対して対応する必要がありました。これを一元化することにより、1年目に950万ドル、2年目に3,410万ドル、3年目に6,440万ドルを節約することができるとしています。この予測値は州の導入率が考慮されており、1年目は40%、2年目は60%、3年目は90%を前提として置いています。
次に事故情報共有による経済効果ですが、米国では年間800万件以上の保険金請求を異なる保険会社間で連携して処理しています。80%の保険会社がアプリケーションを導入すると、120万時間の労働時間が削減できるので、3,460万ドルのコストを削減できるとしています。
最後に顧客満足度の向上による経済効果ですが、J.D. パワー(米国調査会社)が出している顧客満足度スコアが1ポイント改善するごとにExpense Ratio(保険料収入に対する事業費率)が0.136%減少するとしています。80%の保険会社がアプリケーションを導入し、顧客満足度スコアが1ポイント向上すると、1億7,800万ドルのコストを削減できるとしています。
RiskStreamの調査結果をもとに筆者が作成
(原文は以下のリンクを参照)
4. システムテストを無事に終了
RiskStreamは2019年10月にCanopyフレームワークのシステムテストが無事に終了したと発表しました。このテストは複数のシナリオ(車2台の自動車事故など)を想定して実行され、RiskStreamの参加企業は保険金請求プロセスをブロックチェーンで安全に処理できることを確認しました。また、異なるクラウド環境同士の接続が可能であることも実証しています。これは保険会社が自由にクラウド環境を選択できることを意味しています。
(原文は以下のリンクを参照)
5. 運用テストを無事に終了
RiskStreamは2020年2月にCanopyフレームワークの運用テストが無事に終了したと発表しました。このテストでは11つのノードが複数の地域のクラウド環境に展開され、12時間の間に500,000以上のトランザクションを処理しました。これにより、RiskStreamの参加企業はCanopyフレームワークの処理性能に問題が無いことを確認しました。
このテストの成功は、Canopyフレームワークの本番稼働が間近に迫っていることを意味しています。目先は保険証明と事故情報共有のアプリケーションを開発しておりますが、他のユースケースもCanopy上に実装することができます。
(原文は以下のリンクを参照)
6. 終わりに
RiskStreamの近況を紹介しましたが、非常に大きな経済効果をもたらすコンソーシアムが商用化のフェーズを迎えつつあることをお伝えできたかと思います。
最後に日本の状況についても簡単に触れたいと思います。
日本の保険会社でもブロックチェーンを活用した試みは行われているものの、異業種との連携がテーマになっていることが多いと思います。もちろんそれもブロックチェーンを効果的に活用しており、新たな付加価値を生み出す大変意義のある取り組みだと考えております。
一方で、保険会社同士が情報を連携し合う取り組みはこれからという状況です。過去のエントリーで業務改善の歴史を紐解きましたが、今後は社外とのワークフローの実現が既存業務の効率化のメインテーマになると思われます。RiskStreamの試みはまさにこれに該当します。
この新しい概念を取り入れることで、業界全体のコストを削減できるだけでなく、顧客満足度の向上にもつなげることができます。そのためには、競合他社と手を組む必要があります。これは私が知る限り、ブロックチェーンを活用したプロジェクトの最大の難関となっております。しかし、RiskStreamの事例から分かる通り、既に時代の潮流となっているので、この波に上手く乗ることが今後の良い発展に繋がるではないかと思います。
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Source: 仮想通貨情報局