あらゆる種類のエネルギーが高級なものとなり、世界の交通システムが電力に依存するようになるなか、エネルギーを大量消費することで知られるビットコインの未来はどうなるのだろうか?
金融サービスの世界では、ESG(環境、社会、ガバナンス)が、社会的影響を重視する企業の間で新しい流行語になっている。その一例が、世界最大の資産運用企業ブラックロック(BlackRock)の最高経営責任者であるラリー・フィンク(Larry Fink)氏が顧客に宛てた書簡。タイトルは「金融の根本的な見直し」だった。
ビットコインも金融の抜本的改革に関わるものだが、エネルギー消費についての評判は悪い。マイニングのために必要な大量の専用コンピューターがその原因だ。
プレイステーションの電力、チリの電力
ビットコインのエネルギー消費をどう解釈するかは、視点による。
例えば、ビットコイン支持者は、ゲーム機「プレイステーション」はビットコインネットワークと同じくらいの電力を消費するというビットワイズ・アセット・マネジメント(Bitwise Asset Management)のリサーチ内容を指摘するかもしれない。そしてお金の再発明は、『FIFA 20』のようなサッカーゲームをプレーすることより、ずっと高尚な目標だと言うだろう。
一方で、環境を重視するグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)氏の世代は、ビットコインを新しい金融商品としか思わず、むしろ人口1800万人のチリと同じくらいの電力を消費することに疑問を投げかけるかもしれない。
新型コロナウイルスの世界的感染拡大によって引き起こされた3月の暴落は、ビットコインの存在意義について、別の疑問を投げかけた。ときに「デジタルゴールド」と言われるビットコインは、常に金融システムの他の部分とは相関関係がない安全資産と考えられてきた。
しかし、コロナウイルスショックによって、ビットコインは株式市場よりもさらに急激な下落を経験した。その後の動きは、S&P500の推移に反映したように映る。
エコノミストで作家のフランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は、こう述べている。
「もはやデジタルゴールドとして使えないとすれば、ビットコインは何に使えるのだろうか?」
気候変動と機関投資家
暗号資産に関わる一部の人たちは、機関投資家の大群がビットコインに流れ込んでくるのは時間の問題と予測している。ビットコインがさらに規制を受け、ビットコイン専用の上場投資信託(ETF)などが登場するにしたがって、そうした事態は進行すると彼らは主張している。
しかし、規模に関係なく、機関投資家の間にESGに対する明確な注力があれば、結局、そうした事態は生まれない可能性がある。少なくとも、予測されたような規模では生まれないだろう。
「ビットコイナーたちは、将来、機関投資家が資金をビットコインに注いでくれることを大いに期待していると思う」と世界4大会計事務所の一つ、PwCのブロックチェーンスペシャリスト、アレックス・ド・フリース(Alex de Vries)氏は言う。
「しかし機関投資家の株主が、CO2排出量の多い資産に投資することを許す可能性はきわめて小さい」
暗号資産については、大口のバイサイド(買い手)の意向を読み解くことは簡単ではない。米CoinDeskが複数の大手投資企業に対して、ビットコインをヘッジ投資先と見なす際にESGは懸念要素になるかと質問したところ、大半がコメントを控えた。
しかし、匿名を条件に、アメリカ最大の年金ファンドの1つはこう述べている。
「ビットコインのようなものは、我々のポートフォリオには合わない」
高まり続けるESGへの関心
ビットコインにおけるESG問題が頻繁に議論されることは珍しいと、ビットワイズ・アセット・マネジメントのリサーチ部門のグローバル責任者マット・ホーガン(Matt Hougan)氏は言う。
「シリアスな会話の20回に1回は話題にのぼるくらい」
しかし、同氏は、ESGは今後より注目されるようになるだろうとも言う。
「ESGが2020年、ある種の新時代に入ったことだと確信している。ラリー・フィンク氏の書簡、オーストラリアの山火事、カリフォルニアの山火事、グレタ氏の人気が組み合わさっている。優先される課題だろう。アメリカのコーヒーショップでESG投資に関する会話を耳にした。今までにはなかったことだ」
それでも、ビットコインコミュニティの大多数は、環境問題をそこまで心配していないように見える。
例えば、暗号資産に特化した投資会社のコインシェアーズ(CoinShares)で、最高戦略責任者を務めるメルテン・デミラース(Meltem Demirors)氏は、ESGと環境のサステナビリティ(持続可能性)は、周期的に盛り上がる傾向にあると指摘する。
「情に流されやすいリベラル派にとって、ESGはニッチでヒッピー的な話題のようなもので、ほとんどは戯言というニュアンスが過去にはあった」
ミレニアル世代の環境保護行動
ESGに熱心に取り組む人たちはおそらく、暗号資産のコミュニティとある種の共通点を持っているだろう。どちらも発展途上の情熱的なムーブメントであり、どちらも主流金融サービスから過激主義とみなされる可能性がある。
ESG支持層の中には、グローバルサプライチェーンを追跡できる能力を持つためにブロックチェーンに価値を見出す人もいるが、その友好的姿勢はビットコインそのものには届かない。
200億ドル(約2兆円)以上の資産を運用し、従業員が株式の過半数を保有するボストン・コモン・マネジメント(Boston Common Management)でシェアオーナー・エンゲージメントのディレクターを務めるローレン・コンペア(Lauren Compere)氏は、ミレニアル世代とポスト・ミレニアル世代は、例えば、あるTシャツがどのようにして作られたのかを追求し、アプリを使って原産地を確認しようと考えると話す。
「ESGの観点から、彼らはまた『ビットコインのようなものはエコシステムにどのように収まるのか?』といったことにも関心があるだろう。気候にどう影響するか?地球環境に貢献しているか?目標実現を可能にしてくれるのか?」
大量電力消費型・CO2排出型
ファイナンシャルアドバイザーにソフトウエアを提供するインベストネット(Envestnet)のインパクト投資担当バイスプレジデントのブレット・ウェイマン(Brett Wayman)氏は、電力を大量消費するプルーフ・オブ・ワーク(PoW)コンセンサスのメカニズムが環境に与える負の影響について指摘する。
「今は、環境への影響は広範囲にわたるだろう。ビットコインは確かに興味深いものだ。しかし、エネルギー利用の観点からは、マイニングは今以上にエネルギー大量消費型になっていく」と、ウェイマンは言う。
(時価総額で第2位の仮想通貨イーサリアムの全面改良を含め、マイニング集約型ではないプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に基づいた暗号資産については、上記の考え方はあてはまらないだろう)
モーニングスター(Morningstar)が株式の40%を保有する、サステイナリティクス(Susainalytics)のテーマリサーチ・マネージャー、マーチン・ベザー(Martin Veser)氏は、マイニングは電力源によっては、きわめてエネルギー消費型・CO2排出型になり得ると言う。マイニングに依存するコインは明らかに環境に対する懸念があると述べる。
「投資家が検討すべき根本的な問題は、暗号資産は実際に価値を加えるコモディティかどうかだ。我々が見てきた初期の傾向としては、多くの人は長期的投資ではなく短期的な賭けとして、暗号資産を売買しているように見える。確かに、このギャンブルは一部の人に利益をもたらしたが、損失を被った人もいる」
責任ある投資家は一般的に、短期的な賭けのチャンスではなく、明確な価値提案のある長期的なチャンスを探しているとべザー氏は言う。
「彼らは、ポートフォリオに加える前に、資産に関連する環境的・社会的リスクを検討する」
マイニングは総じて“グリーン”か?
データの多くは予測に基づいているが、ビットコインのマイニングの約75%は再生可能エネルギーを利用している。
ビットコインマイナーはいわば「遊牧民」で、最も安価なエネルギー源を求めて移動する。マイニングの半分以上は、大規模な水力発電を誇る中国・四川省で行われている。
マイニング装置は持ち運び可能であるため、油田の廃棄エネルギーを活用するなどの興味深いイノベーションも生まれきた。大気中に放出されたり、焼却されるフレアガス(油田から発生する余剰ガス)を電力源に利用する試みもその一つだ。
カナダの油田でビットコインのマイニングを行うアップストリーム・データ(Upstream Data)の創業者、スティーブ・バーバー(Steve Barbour)氏は、ビットコインマイニングを「自然保護マシーン」と形容した。
油田から放出されたガスはマイニングコンピューターが接続された発電機の燃料となる。特に将来、ビットコインが生み出す利益と組み合わせれば、石油会社にとっては、比較的安価な資本投資になるとバーバー氏は言う。
バーバー氏によると、アップストリーム・データは、2019年に210億ドル(約2兆2600億円)を超える収益をあげたエネルギー大手のカナディアン・ナチュラル・リソース(Canadian Natural Resources)と共同で、ビットコインマイニングのテストを計画しているという。
「我々のビットコインマイニングでの取り組みは、メタンガスの放出量を削減する。ビットコインはESGにまったく取り組んでいないというストーリーが、少なくとも不完全であることを示す一例だ」
しかし、全般的には暗号資産とブロックチェーン技術を支持しているイェール・オープン・クライメート(Yale Open Climate)プロジェクトのマーチン・ワインシュタイン(Martin Wainstein)氏は、そうした「グリーン」な試みに懐疑的だ。
「廃棄されるエネルギーを効率的に使うことに対してはクリエイティブだが、ビットコインは手に負えなくなり、当初考えられたようには機能していない」とワインスタイン氏は述べる。
「気候変動の問題は、ビットコインに自己規制、もしくは再構成を強いることになるだろう」
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/46611/
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Source: 仮想通貨情報局