ダボス会議に触れずに乗り切りたいと思っていた。ダボス会議は重要性を失っているのみならず、年々退屈になっているからだ。
しかし、そうした手厳しい判断は不公平かもしれない。世界のエリートが集まるダボス会議の意図は、究極の「インフルエンサー」たちを招き、意見を述べさせることで、世界的な大問題に取り組むことにあるからだ。
確かに、気候変動の切迫した危機を議論する場への移動に使われるプライベートジェットを冷笑し、特権階級の金融家たちが経済的自由のためのツールを否定することを嘲笑し、検閲によって偽情報と戦おうとする偽善を笑うことができる。
しかし、ダボス会議は人脈作りの機会として評価することもでき、メディアの華やかな報道を楽しむこともできる。実際それがますますダボス会議の要になってきている。
鋭い質問
興味深いが見過ごされている議論が、ときおり表面化することがある。トークン化経済の討論会で実際に起こり、私はその様子を楽しんだ。
討論会では、サークル(Circle)のジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏、ステラ(Stellar)のデネル・ディクソン(Denelle Dixon)氏は、ユーロクリア(Euroclear)のリーヴ・モストレイ(Lieve Mostrey)氏、スカイブリッジ(Skybridge)のアンソニー・スカラムッチ(Anthony Scaramucci)氏といった大物たちがクオリティの高い議論を展開した。
ユースケース、規制、管轄の違いなど、よくある話題が雄弁に語られた。そして、最後の最後に私が「良い内容だったが、目新しいことは何もなかった」と結論づけようとした矢先、聴衆の1人が「同じ活動、同じリスク、同じ規制」という規制アプローチについて意見を求めた。最後の最後に、議論を呼びそうな話題が登場した。
ユーロクリアのモストレイ氏が最初に発言し、進歩を妨げないためには、規制はテクノロジー中立なものでなければならないと主張した。これは、ユーロクリアのこれまでのアプローチであり、同社は独自ブロックチェーン上で短期証券を発行し、それを従来プロセスに引き継ぐことで既存の法律に完全に準拠している。
理解できるし、原則として私も同意する。重要なことは結果であり、テクノロジーではない。しかし、ブロックチェーンと証券に関しては、テクノロジーは非常に重要だ。ブロックチェーンは新たなメリットだけでなく、従来の手法では考えつかないような新たな機能を提供する。
確かに、正確には「同じ活動」ではない。しかし、すべてのブロックチェーンベースの証券を現行ルールに適合させると主張することは、スタート地点での可能性を制限することになる。我々は「代わり映えがしないもの」しか手にできないだろう。もっと上を目指せるはずだ。
同じようで違う
仮に「同じ」ところからスタートし、規制当局と協力して「異なる部分」向けのルール作りに取り組むとしても、対処すべき規制上の問題がある。
そもそも、ユーロクリアのブロックチェーンベースの債券は、完全に法律に準拠するために従来プロセスに渡す必要があった。これではプロセスが増え、レイヤーが厚くなり、仲介業者が必要になる。効率的とは思えない。なぜブロックチェーンベースの債券は規制要件を満たせないのか?
それは、ブロックチェーン上で証券取引をネイティブに認識することは、思っているほど単純ではないからだ。
例えば、決済のファイナリティは証券規制の重要な部分だ。所有権はいつ移譲されたのか? 従来の証券では、売り手が買い手から資産に対する支払いを受け入れたときだ。
ファイナリティには、ユーロクリアのような清算機関が関与し、多くの段階を踏む必要がある。しかしブロックチェーンでは、決済の「ファイナリティ」は直接行われ(支払いと移譲が1つのステップで行われる)、通常はコンセンサスに基づいている。どの程度のコンセンサスがあればファイナリティには十分なのだろうか?
さらに、トークン化に使用されるブロックチェーンには、パブリック・ブロックチェーン、パーミッションド・ブロックチェーン、独自ネットワーク、場合によってはハイブリッド・チェーンなどさまざまな形態があり、この問題はさらに複雑になっている。異なるブロックチェーンは異なる方法で機能する。
また、オンチェーン取引にどのようなレポーティングが必要で、どのように提供すべきかも今のところ明確になっていない。さらに、どのようなアイデンティティ(ID)を使うべきなのか?
また、セキュリティのライフサイクル全体がコードに組み込まれている場合、何か問題が発生したら誰が責任を取るのだろうか? 選択したプラットフォームにもよるが、ブロックチェーンの修正は簡単ではない。
ユーロクリアのアプローチは有効な場合もある。ブロックチェーンを使いながら、従来プロセスですべてを繰り返すことで、規制当局が満足し、伝統的投資家が排除されたと感じないようにすることができる。
しかし、それは最適なのだろうか? この新しいタイプの資産を既存の構造に押し込めることが、最も効率的なアプローチなのだろうか? ゲートキーパーを通過させることで、今のところ潜在的なリーチは広がっているが、結局のところ、きわめて短期的な解決策に過ぎない。
インターネットに学ぶ
サークルのアレール氏の返答は、その点を簡潔に要約したものだった。
「同じ活動、同じプロセスは、やはり後ろ向きの考えだ」
彼はインターネットの黎明期を例に挙げた。もしこの考え方が当時適用されていたら、今日の世界はまったく違ったものになっていただろうと彼は言う。
すべてのウェブサイトは連邦通信委員会に登録する必要があっただろう。音声をストリーミングする場合は、無線免許を取得する必要がある。ピアツーピア通信の場合、プラットフォームは通信事業者になるための申請が必要になる。
こうした迷路のように入り組んだ要件のために、インターネットの主な用途は研究論文の交換にとどまっていだろう。
暗号資産も同じような状況にある。規制はテクノロジーではなく、結果を重視すべきだという点には完全に同意する。しかし、根本的に異なる方法で物事を行うテクノロジーの能力を無視することは、最初の一歩を踏み出すときの可能性を断ち切ることになる。
解決は難しい問題だ。金融資産は、出版物や音声コンテンツとはまったく異なるリスク要件を持っている。投資家を保護するための規制は、当然のことながら桁違いに複雑になる。
また、ブロックチェーンを利用した資産移転の新たな特性を考慮した新たなプロセス向けの草案を待っていたのでは、結局、進歩が何年も遅れることになりかねない。
妥協案
では、解決策は何か?
私の希望は、「単純な」トークン化証券は既存プロセスの対象とし、暗号資産ネイティブや伝統的な市場参加者がプロセスや市場の反応について実験を開始できるようにすることだ。
一方、サンドボックスでは規制当局の承認を得た実験を可能にする必要がある。サンドボックスでは、市場の変化や「奇抜な」アイデアが効率的な未来の標準になる可能性を認識する必要がある。
電子取引が常識からの劇的な逸脱と見なされていたのは、歴史の流れの中で、それほど昔のことではない。
トークン化も同様の逸脱であり、飛躍だ。電子取引がそれまで想像もできなかったような新しいタイプの商品や取引戦略を可能にしたように、ブロックチェーンベースの市場もそうなるだろう。
電子取引がきわめて洗練されたダッシュボードを実現し、インテリジェンスとレポーティングの両方を向上させたように、ブロックチェーンの透明性は新たな市場機能を実現しながらリスクを低減できる。
ブロックチェーンに潜む可能性は、効率化をはるかに超えている。これまでできなかったことができるようになる。そのためには、新しいルールが必要になるが、当面の間は既存のルールで対処できるはずだ。
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/216677/
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Source: 仮想通貨情報局