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取引高“水増し”ビジネスを手がける大学生──コロナで再燃するトークンブーム

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このビジネスはもう長くはない──11カ月前、アレクセイ・アンドリューニン(Alexey Andryunin)はそう確信していた。

モスクワ出身、22歳の数学専攻の大学生アンドリューニンは知名度の低い暗号資産(仮想通貨)──ほとんどは2017年のICO(新規コイン公開)ブームのときに発行された──の取引高を膨らませるビジネスを手がけていた。

昨年7月に公開した記事で彼は、「マーケットメーカー」にお金を払い、取引高を膨らませることで生き延びている小規模トークンと取引所についての裏ビジネスを率直に語った。

マーケットメーカー:大規模な売買を行う市場参加者。市場の流動性を確保するためにはマーケットメーカーの存在が不可欠。

その際、アンドリューニンは自分のビジネスは衰退していくと考えていた。ICOは瀕死の状態、トークン市場は縮小し、規制当局は暗号資産分野のこの怪しい領域の調査を始めようとしていた。

トークン向けのあらゆるサービス

だが彼は今、自分は間違っていたと語る。

トークン発行者たちはプロジェクトが取引所に上場できるよう、アンドリューニンにお金を払って取引高を水増し、彼のビジネスは再び成長している。新型コロナウイルスの感染拡大によって、暗号資産の次のチャンスを求める投資家が増えたことも追い風になった。

「ビッグデータ分析にシフトする予定だった。だが市場が突然我々の方に押し寄せて来た」

取引高を膨らませることに加えて、アンドリューニンの会社はトークンプロジェクト向けのあらゆるサービスを提供している。プロジェクト創業者にアイデアしかなければ、アプリ開発も行う。もちろんお金と引き換えに。

以前は2人だった彼の会社「ゴットビット(Gotbit)」は現在、7人のスタッフを抱えている。フリーランスのスタッフにも事欠かないようだ。アンドリューニンが3年生として在籍しているモスクワ大学の数学専攻の学生の中には、そうした人材が溢れている。

毎月10億円弱のマーケット

だがCEOとしての生活と大学のスケジュールは合わない。彼は今学期後の退学を考えている。

「基礎数学(の勉強)と事業運営の両立は難しい」

アンドリューニンが新たに見つけたチャンスは、ICOブームが去ってから長く経った今でも、トークンセールで資金調達を行っている者が数多く存在すること。新型コロナウイルスの感染拡大がトークン発行者と仲介者にとってビジネスを再び利益が出るものにしたことを示している。

最盛期と比べるとその規模ははるかに小さくなっているものの、トークン市場は活況だ。この30日間だけでも60以上の新しいトークンがバイナンス(Binance)が最近買収した人気の暗号資産情報サイト、コインマーケットキャップ(CoinMarketCap)に加わった。

小規模トークンと無名の取引所の世界は依然として魅力的だと、アンドリューニンは語る。

彼の推計では、新しいトークンの「宣伝」に関連する市場は、彼のような会社への手数料として毎月約1000BTC(約900万ドル、約9億7000万円)相当を支払っている。

新型コロナウイルスの影響

上場を目指すトークンプロジェクトと取引所の仲介を行うリスティングドットヘルプ(Listing.Help)の創業者セルゲイ・キトロフ(Sergey Khitrov)は、こうしたサービスに対する需要はこの春、大きく膨らんだと語った。

「新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業は打撃を受け、各社は暗号資産プロジェクトへとシフト、上場への需要が大きくなった」

加えてこの春、多くの取引所が上場手数料を下げたことも需要を刺激した。

ICOで生み出されたトークンの約95%はすでに消滅しており、その価値は2017年のピーク時に比べて最大で70分の1になっているとキトロフは考えている。それでも、トークンビジネスに参加したい人はまだ存在する。

IEOプラットフォーム

世界最大級の暗号資産取引所バイナンスでは、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)プロットフォーム「バイナンス・ローンチパッド(Binance Launchpad)」への新規上場の流れは「市場トレンドのために2019年以降、著しく低下した」と広報担当のレア・リー(Leah Li)は述べた。

だが現在、従来型のIEOと抽選の2つの形式で新しいトークンを提供している同プラットフォームは「バイナンスユーザーに非常に高い人気を誇っており」、リーによると、1件のIEOに最大2万2000人のユーザーが参加している。

その理由の1つは、新型コロナウイルス危機が伝統的な企業に大きな影響を与えるなか、投資家がオンライン分野に関心を向けたことにある。

「かつてはオフライン企業に投資していた資金力のある人たちが、今はデジタル企業に投資している」

そう語るのは、トークン上場ビジネスに携わり、アンドニューニンの会社から一部の業務を下請けしているB&Rグループ(B&R Group)のCEOニキータ・ブルドノフ(Nikita Brudnov)。同社が下請けしている業務には、取引高操作のボットも含まれる。

おおむねたどる道

ゲーム、エンターテイメント、そして金融の企業がおおむねたどる道とブルドノフは付け加えた。

オンライン分野は需要も急増している。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大で家に閉じ込められた人々は、今までより頻繁にデイトレーディングを試みている。

「多くが暗号資産に飛びついた。ビットコインが急落した時には、買いに走った」とブルドノフは3月中旬の急激な価格下落を引き合いに出して語った。

しかし、伝統ある企業が資金調達にトークンを利用する真意は、ブルドノフもアンドリューニンもそうした企業を顧客に持っているにもかかわらず、彼らにもわからない。

「なぜ暗号資産が必要なのか?」

「私は彼らに『なぜ暗号資産が必要なのか?』と聞くが、彼ら自身もわかっていない。2017年に参入し、いまだに同じことを行っている」とアンドリューニン氏は言う。

「そうしたプロジェクトの一部は、暗号資産ですでに何かを成功させた人々によって作られたもの。そしてわかっていることは、彼らが成功したことだけだ」

トークンは(規制当局にはまったく歓迎されないが)資金調達のより簡単な方法でもあるとアンドリューニンは言う。

IPO(新規株式公開)は「簡単ではないが、力強いプロジェクト。素晴らしい時価総額、長期的な成長が必要だ。一方、トークン発行に必要なものは、1ビットコイン、5行のコード、そしてイーサリアム上のトークンだけだ」

健全なビジネスモデル

ゴットビットは、新規顧客を選ぶようになっており、「手っ取り早くお金を稼いで撤退する」のではなく、健全なビジネスモデルを持つ顧客を選ぼうとしている。

「例えば、我々の顧客の1社はトークンを使ったスポーツゲームのスタートアップ。そうした顧客には値引きにも応じ、彼らのトークンでの支払いも受け付けている」

ゴットビットは現在、34のトークン発行者、準備中の5つの取引所を含め、80を超える顧客を抱えている。

顧客は、以前から暗号資産ビジネスが活発なアジアをはじめ、中東、そしてスイス、フランス、ベルギーといったヨーロッパの国々の企業とアンドリューニンは語った。

6カ月での上場戦略

顧客は時間とともに進化しており、トークンを販売するスタートアップは、パブリックセールから、ファンド、友人、家族によるプライベートな投資に移行しているとアンドリューニンは語った。一方、ブルドノフはICOが途絶えた後、その後継とも言えるIEOは、トークンがは大手取引所に上場できない限り、ほとんど意味がないだろうと話す。

「IEOを行った顧客はいるが、彼らはほとんどなにも調達できなかった。1000ドルくらいだ」

だが、バイナンス、クーコイン(KuCoin)、フォビ(Huobi)のような大手取引所でのIEOは違うとブルドノフは言う。

アンドリューニンによると、ゴットビットは6カ月以内にそうした取引所でのトークン上場を実現する戦略を持っている。

小規模取引所から大手取引所へ

その戦略とは、まずトークンを複数の小規模な取引所に上場させ、マーケティングやコミュニティに対する取り組みで取引高を膨らませるものだ。

バイナンスのローンチパッドのような大手取引所のプラットフォームで行われるIEOの場合、最初にコミュニティの投票によって上場させる新しいトークンを選ぶことが一般的だ。

投票がうまくいき、トークンが上場されれば、プロジェクトの苦心の時間は終わると、アンドリューニン氏は言う。

「顧客は無限の流動性、多くのユーザーを獲得し、投資を望む人々からの資金が流れ込む」(ボットを使って取引高を膨らませることは小規模取引所に限られ、大手取引所では行わないと彼は強調する)

そしてバイナンスのような大手取引所に上場すると、多くの小規模取引所はすぐにそのトークンを上場させ、トレーダーの関心を集めようとする。

すでに同社が手がける16のトークンプロジェクトがコミュニティの投票で認められ、4つのトークンが大手取引所のIEOプラットフォームに上場したとアンドリューニン氏は述べた。

「取引高を市場に送り込む」

アンドリューニン氏によると、トークンをコインマーケットキャップや大手取引所に上場させるには、操作はごく初期に、短い期間に「全力で」行われる。

「そうすればプロジェクトが市場に受け入れられず、中途半端な状況になることはない。市場に受け入れられないことは非常にまずい状況だ」

ゴットビットは、大手取引所のIEOコミュニティで投票が行われる前の数カ月間に「かなりの取引高を市場に送り込む」ので、トレーダーが最後の戦いの直前に関心を失うことはないという。

そうしたトークンには単独でトレーダーを惹きつけるほどのボラティリティはなく、ビットコインのようにわずかな価格変動から利益を生み出すことができる洗練された投機ツールも存在しない。

取引高は検討要素の1つだが

ゴットビットの費用は、トークンの状況に応じて、6カ月で6万〜10万ドル(約650万〜約1100万円)。一部のトークンは、上場後も人為的に取引高をサポートする必要があるとアンドリューニン氏は付け加えた。

取引所の中には、取引高の下限を設けているところがあり、下回ると上場廃止になる。そうしたトークンへのトレーダーの自然な関心は、多くの場合、必要な水準からは程遠い。

バイナンスは常に新しいプロジェクトの創業者と連絡を取り、「正確性と信ぴょう性を確保するために、提供された情報や指標を広範囲に確認する」と広報担当のリーはCoinDeskに語った。コミュニティで投票を行うプロジェクトを選定する際には、バイナンスは「実績のあるチーム、有用なプロダクト、そして大きな顧客基盤」などを求めている。

「プロジェクトへのチームのコミットメントは重要な指標で、開発の水準や質も同様だ。我々は、我々が期待する高い水準を満たしていることを確かめるために、各プロジェクトを入念に検討する」とリーは付け加えた。

既存の取引高については、検討する「数多くの要素のうちの1つ」に過ぎないとリーは述べた。

「通常、取引所はどこかを見れば、取引高がどれくらい本当なのかはかなり明確に判断できる」

ゴールは本物のマーケットメーカー

今、大きな市場はトークンではなく取引所、特に先物を扱う取引所だとアンドリューニン氏は述べる。

ゴットビットは3月、小規模取引所での売買を成立させるために、バイナンスのような大手取引所で売買を行うことを始めた。

「先物取引所では多額の儲けを出すことができる。多くの人は、自分は優れたトレーダーだと考え、先物取引所で100倍のレバレッジでビットコインを購入する。彼らは市場に非効率性を生み出し、我々はそれを利用して利益をあげる」

自らの「マーケットメイキング」ビジネスを閉めようと考えてから1年、アンドリューニンは成長を目論んでいる。

最終的な目標はバイナンスやフォビのような大手取引所向けの本物のマーケットメーカーになることと彼は言う。だかそれにはある程度の投資が必要だ。

「40〜50の取引ペアをサポートし、それぞれ少なくとも5万ドル程度のお金を入れておく必要がある。つまり、約200万ドルが必要になる。だがそのお金は毎月約10〜15%の利益をあげる」

今はまだそのような余裕はないが、いつかは実現したいとアンドリューニンは語った。(敬称略)

参考資料:https://www.coindeskjapan.com/68275/ 

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Source: 仮想通貨情報局

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