3月23日から3月25日の3日間にわたり、東京一ツ橋でSatoshi’s Vision Conferenceが開催された。
Bitcoin Cashを旗印として、世界中から数百人が一同に会した中で、各種トピックについて発表がなされたので、この間の空気感を振り返りながら、象徴的な話題を中心に概観をまとめてみたい。
筆者はScalingBitcoinやEthereum Devconにも参加したが、それらと比較しても、会場の雰囲気は、MCとして取り仕切るTaariq Lewis氏の巧みな進行により、和やかなムードに包まれたものだった。今回の開催地は東京ではあるものの、参加者のほとんどが欧米、ロシアからの参加者であり、Bitmainがスポンサーの一角であることもあり、残りも中国系が多くみられた。日本人の参加者は全体の1割にも満たないものだったことから、さながら東京開催であることを忘れてしまう錯覚すら覚えるものだった。
とはいえ、折しも東京は桜が満開を迎える時期と重なったこともあり、天候にも恵まれたことも味方して、皇居側に見える並木の光景や、会場そばに咲く一本の桜の姿は、海外からの来訪ゲストの目を楽しませたことと思われる。もちろん、そうした風光明媚さだけではなく、セッションの節目に挟まれるコーヒーブレイクの時間も会場フロアの外のスペースのあちこちで歓談が繰り広げられていたことなどから、世界各国から集まった参加者にとって、ネットワーキングという意味でも有意義な機会になったことが窺われる。
発表された内容は、OP_GROUPによるトークン発行、ゼロ確認ペイメント、OP_SIGDATAVERIFYによるオラクル検証、Bobtailなどといったトピックが並び、こうした文脈から、Bitcoin Cashの目指そうとしている世界観が、単なる少額決済に留まらず、トークン発行やチューリング完全を可能とする豊かな表現力を備えたものであろうことが想像される(註: 筆者の理解不足で講演者の意図を正しく把握できていない可能性もある)。
レイヤー1上でネイティブトークンを発行するOP_GROUP
これは、Bitcoin Cashのブロックチェーン上でトークン発行(Colored Coin)を可能にするものだ。より簡潔にいえばERC20が行っていることをBitcoin Cash上で行えるようにしようとするものと考えられる。
元来、BitcoinにおいてもColored Coin或いはCounterpartyを用いてトークン発行が盛んに行われていたが、手数料高騰に伴い、そのお株をEthereumのERC20に奪われたような形になっていた。同様にICOプラットフォームとしてもBitcoinではなくEthereumを用いることが当たり前同然になっている。
OP_GROUPについても、こうした環境を踏まえた中で「今後Bitcoinのアダプションを進める上では、プロトコルの機能や表現力を高めていくことが必要である」との課題意識に立ったものと推察される。
OP_GROUPによるトークン発行においては、Bitcoinプロトコルに変更を加えてトークン発行を可能とするのが特徴となるため、チェーン上のトークンとなり、フォーク時はトークンもフォークすることとなると考えられる。
ブロックを待たずに送金完了となるゼロ確認ペイメント
これは、トランザクションがBitcoin CashのMempool中にあると確認できた段階でペイメント完了とみなすことによって、リターンが返却される前にトランザクション完了とするものだ。
一般的には二重支払いを防ぐために少なくとも1確認は必要とされるが、この「ゼロ確認ペイメント」の場合は、交換業者やマーチャントが1回目のネットワーク確認が届く前にペイメント受け入れ、ブロックを待たずに即座にペイメント完了となる点が特徴だ。
なお、こうしたゼロ確認ペイメントが成り立つ上では、正しい行いを利益とするインセンティブ設計として、「ゼロ確認トランザクションを二重使用するよりも、正直にマイニングするほうがメリットとなる」ようにする必要があるため、今回、ネイティブでの「二重支払い耐性」として「二重支払いリレー」が示されている。
スタック上の任意データ検証を行うOP_DATASIGVERIFY
ビットコインは署名を検証するわけだが、通常のCHECKSIGファミリーのOpcode(オペコード)はトランザクションデータを検証するものであり、任意データを検証するものではない。しかし、外部情報を伝えるオラクルが独自に署名つきステートメントを発行しようとすれば、スクリプトがステートメントの真正性を検証できるようにする必要がある。
そこで、OP_DATASIGVERIFYは、トランザクションではなくスタック上の任意データを検証するものである。このようにBitcoin Cashでは、外部オラクルも含め、「チューリング完全なスクリプト記述を可能とする」ことを目指していることが想像される。
ブロック生成時間のバラツキを抑えるBobtail
よく知られるとおり、BitcoinのPoWによるマイニングでは、0~2^256-1の範囲内でハッシュをサンプリングし、ターゲット値未満のサンプル最初に見つけたマイナーが勝者となる仕組みになっている。このときマイナーがラッキーならブロックが早まる一方、逆にそうでなければ時間がかかる。統計上どれくらいのバラツキがあるかというと、80%のブロックは1~23分かかっていて、5%のブロックは30分以上かかっている。ビッグブロックほどこうしたバラツキの影響をうけるため、Bitcoin Cashでも重要な取り組み命題となっているものと推察される。
そこでBobtailは、マイニングに伴うブロック生成時間のバラツキを小さくして、二重使用耐性を高めようとするものだが、具体的には、小さい方のk個のブロックハッシュの平均値がターゲットを下回るようにすべく、この証拠を全マイナーから共同で拠出しあった上で、報酬も山分けし合うという仕組みになっている。
Bitcoinのスケーリング
スケーリングへ向けたソリューションとして、オンチェーン、オフチェーン、ネットワークプロトコルレベルという3種類の方法が紹介された。
まず「オンチェーンによるスケーリング」として冒頭で紹介されたのが、2015年10月に発表されたBitcoin NG。これは、キーブロック(10分間隔。マイクロブロックの発掘権付き)とマイクロブロック(10秒間隔。トランザクションデータのみ保有)で役割分担してコンセンサス遅延を防ぐことが特徴であり、トラストモデル変更なしにスループットを100倍改善可能と謳う。
さらなるスケーリングとして「オフチェーン」のキーソリューションとされるのが、トラステッドハードウェア(TEE:Trusted Execution Environment)だ。コードや秘密の機密性、実行や結果の一貫性、既存コモディティハードウェア(ARM、Intel、AMD製)がポイントとなる。TEEを用いたチャネルであるTeechan(ティーチャン)は、単一チャネルで秒間78000トランザクションを捌く。さらに、多重化チャネルやアトミックマルチホップトランザクションを備えたTeechain(ティーチェーン)へ拡張されている。
この他、プロトコルの下位レイヤーの「ネットワークレベルでのスケーリング」として紹介されたのが、3月に発表されたbloXrouteと呼ばれる高パフォーマンスネットワークであり、これは「中央集中だがアントラスト」である点が特徴と謳われている。
将来のトピック
最後に、今後Bitcoin Cashに取り入れると考えられているトピックを俯瞰する。今回紹介されたのは、UTXOコミットメント、プレコンセンサス、トランザクションオーダリング、そしてOpcode追加の4点であり、以下に列挙する。
まず「UTXOコミットメント」は、ブロックチェーン全体のダウンロードを不要とし、ビッグブロックであってもノード運営を安価とできるようにしようとするものだ。次に「プレコンセンサス」は、一般にノードはブロック発見時に稼動し他はアイドル状態となることから、数秒以内での99%信用を実現しようとする。
また「トランザクションオーダリング」は、従来のtxidオーダーを変更して、Grapheneによるセットリコンサイルを通じて高速ブロックリレーすることで並列ブロック検証を実現しようとするものだ。最後に、「Opcodes追加」では、かつてDoS攻撃回避を目的として削除されたものが一部復活する他に、前述のOP_DATASIGVERIFYなどが予定されている。
まとめ
こうして三日間のセッションを振り返ってみると、改めてBitcoin Cashが描こうとしているであろう姿(少額トランザクションの高速決済やネイティブトークン発行、チューリング完全など)が、Bitcoin Coreのそれとは異なるものなのだろうということ、それゆえに昨年8月のBitcoin Cash誕生もひと時の仲違いから起きたものではなく、それぞれの目指す世界観の違いに拠るものであり、昨夏のハードフォークは起きて良かった・起きるべくして起きたものだったと、遅蒔きながら改めて腹落ちする事が出来た。
ビッグブロック以外にも、プロトコル変更を通じてトークンを実装しようとする考えなど、実現したい未来の実装にむけた思想の違いがBitcoin Coreとの間にあることは否めず、こうした差異も(どちらかベターなのかの評価は時間を待つとして)ハードフォークの一因になったことが窺われる。そのほか、Bobtail或いはGrapheneといった今回あがったトピックも、思えば昨秋のScalingBitcoinで紹介されたトピックであったが、そうした提案がいち早く前進にむかっている点も、Bitcoin Cashの特質なのかもしれない。
Bitcoinコミュニティ分派という代償は確かに大きかったが、Bitcoinによるデジタル通貨革命の進展には意義ある決断であったと考える。2015年から2年ほど続いたブロックサイズを巡る論争はコミュニティの疲弊を招いたばかりでなく、Ethereumを始めとする他プロトコルがスケーリングやトークン等の研究・実装を進めていた中で革新の歩みが全体として遅滞してしまった感がある。
ただ幸か不幸か、肝心のユースケースやサービス実装、マネタイズ可能なビジネスモデルはまだ本格離陸できておらず、DAppsやDEXやNFT等の周辺で手探りが始まった局面にあるほか、各国の戦略的ルールメイクも一層本格化すると見られる。このほど成立した米国CLOUD Actも踏まえて、トランザクションやコントラクトにおけるプライバシーに関する取組みも益々重要になるだろう。
こうした環境の中、昨夏のハードフォークを経て、Bitcoin Cashの独自の強みを軸として、Bitcoin CoreやEthereumなども含めた他のプロトコルとの競争を通じた技術発展・そして新たなサービスの実装がますます進んでいくものと思われる。今回のSatoshi’s Vision Conferenceは、その際の基本的な要素の一端を、この世界への思いを共にする多くの参加者と垣間見ることができた三日間であった。
末筆ながら、Satoshi’s Vision Conference初回開催の企画・準備・運営に尽力された方々に感謝の意を表したい。
参考資料:https://btcnews.jp/1vt09itp15602/
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Source: 仮想通貨情報局