国内仮想通貨取引所ビジネスの再編の波が、こんな形で再び押し寄せるとは――。
20日未明、取引高で国内第三位の仮想通貨取引所ザイフ(Zaif)がハッキング被害にあい、日本円で約67億円相当の仮想通貨が流出したことを明かした。
意外だったのは、今年1月に起きたコインチェック事件とは対照的に、このままでは破綻を免れないザイフの買い手が明確に示されているということだ。
ザイフ買収に向けた交渉を開始したのは、東証ジャスダックに上場する金融情報サービス業者フィスコだ。
傘下の仮想通貨関連会社フィスコデジタルアセットグループ(FDAG)の子会社を通じて、ザイフに対し「50億円を提供する金融支援」や同社「株式の過半数を取得する資本提携、過半数以上の取締役及び監査役の派遣」等を検討する内容とする基本契約を締結したとしている。
「正式合意」を目指す検討をする3点
(1)金融支援の金額 50 億円、(2) 最終的な株式シェア過半数以上、(3)過半数以上の取締役の派遣および監査役1名 の派遣
仮にフィスコがザイフ買収に成功すれば、知名度の低かったフィスコ仮想通貨取引所を運営する同社が、取引高や口座数ベースで国内トップ級の取引所に躍り出る。
また「フェイクニュース」が横行する仮想通貨の世界で、フィスコ持ち前の金融情報発信やコーポレートコミュニケーションのノウハウを活かし業界に新風を吹かすこともできるかもしれない。
ただし注意が必要なのが、フィスコとザイフは「正式合意にむけた交渉を開始した」というのが実態で、まだまだ不確定要素が多い。つまり「金融支援」が意味するのは買収だけではなく資金の貸付等を含む「全ての選択肢が実はある。(金融支援がどういった形になるかは)今後のデューデリジェンス次第」。ザイフ株式の過半数取得というのは、仮に50億円が「株式と引き換えに注入された場合過半数になるということ」だ(フィスコ取締役)。
状況はまだ流動的だ。
そこでコインテレグラフ日本版は今回、「ホワイトナイト」として現れたフィスコデジタルアセットグループの代表取締役・田代昌之氏および同社取締役幹部を直撃。買収交渉開始までの経緯や、今後考えられる展開などについて話を聞いた。(取材内容や田代社長の受け答えは読みやすさを考え編集してあります。逐語記録でないことにご注意ください。)
連休の最終日には事態把握、19日の取締役会で交渉開始を決定
「動かなければ・・・(ザイフを運営するテックビューロ本社のある)大坂入りしなくてはーー。」
フィスコ幹部がザイフで起こった問題を把握したのは、ハッキング侵害から週末をまたいだ連休の最終日、17日(月)だった。
「あちら(ザイフ側)がサーバーだとか色々(問題)を理解したのが17日。我々(フィスコ側)としてもウエっと(驚いた)状況だ。」
フィスコおよび連携先の株式会社カイカは、ザイフを運営するテックビューロに2年前に資本参加し、もともと深い関係にあった。また、フィスコ仮想通貨取引所がザイフのホワイトラベル形態での運営から、カイカの作った新システムに移行完了した直後だったということもあり、ザイフのシステムも熟知していた。
そこで問題をいち早く察知したカイカがフィスコに伝え、フィスコから金融支援についてザイフに声をかけた形となった。
18日にフィスコ経営陣がデューデリジェンスの内容を見た結果、「そんなに筋は悪くない」と判断。翌日19日には取締役会での決定を経て同日、ザイフと「正式合意に向けての基本合意」を締結した。
かなりスピーディーな展開といえるが、「即決」の背景にあるのはザイフが持つ個人口座の数だ。
「ザイフは個人をターゲットにした取引所で口座数も多い。一方フィスコ仮想通貨取引所の法人向けのモデルでマーケティングのやり方が違う。これをもって筋がよいと判断した」
「(親会社である)フィスコの情報配信とのシナジー効果も大きく期待できる。ザイフの個人顧客、フィスコ仮想通貨取引所の法人顧客、フィスコの情報配信事業がミックスすればかなり大きなビジネスになるだろう、という話もある。<中略>(仮想通貨交換業者間の競争において)単純に資本力にものをいわせるいわば札束の戦いではない、独自の戦い方をしていく」(田代社長)
現在、フィスコデジタルアセットグループの担当者が大坂で朝山社長と金融支援交渉を進めているという。
ザイフの「顧客資産は安全」ツイートの真相は?
ちなみに18日時点でザイフはツイッターの公式アカウント上ではまだ(サーバー)障害が入出金停止の原因であることを示唆しつつ、「資産の安全を確認した」と報告している。
これについて田代社長は、「推測だがザイフ自身もどこまで把握できていたか疑問。今でもサーバーを止めてる状態で、(ビットコインとあわせて盗まれた)ビットコインキャッシュとモナコインは枚数すらわかっていない状況だ。<中略>何かしら問題が起こった時に仮想通貨交換業者がだすような一般的な内容のツイートだったので、サーバーラグか何かだという感覚で見ていた。」
「全額補償」ベースで進める 補償方法は課題
ザイフに資金を預けていたユーザーにとって一番心配なのが、全額そろえて補填されるかだ。
顧客資金の補償については現時点で明確には決まっていないが、「コインチェックの事例をみる限りでは金融庁の意向は全額補償だろう。(事例を鑑みると補償方法は)キャッシュになると思うが、税制や会計上詰めなくていけない点だ。コインチェック事件の時は(ユーザーの保有していた仮想通貨が)強制的に利益確定され、これが(その後相場が下がったので)結果的には良かったが、これは結果論に過ぎない。国税等も交えて進める必要がある。」
「今回(流出した)45億円相当のBTCというのは日本円で補償すべきなのか、BTCベースで補償すべきなのかは課題。BTCがそもそも補償に使えるかという位置づけの問題もある。」
全体の補償額については、「ビットコイン(BTC)ベースで確定しているのが45億円ほどだ。これくらいであれば今回金融支援すると決めた50億円で足りるが、(全体の補償額は)モナコインとビットコインキャッシュ次第だと見ている。<中略>(金融支援額が)拡大する可能性ももちろんある。ただしフィスコデジタルアセットグループ(FDAG)の株主にとってプラスになるか考えながら決める。」(田代社長)
金融庁には連絡済み 「ザイフの内部統制立て直す」
気になるのが、仮想通貨取引所の業界再編に深くかかわる金融庁の動きだ。
これについて田代社長は「(この取材直前にも)金融庁のフィンテックモニタリング室と電話をしていた。今はザイフが金融庁主導で色々動いている状態で、フィスコとしては待ちの状態だ。今後ザイフや金融庁との要請に応じて連携が加速していく。」
もともとザイフは経営とシステムの両方で問題視されてきた取引所だ。
「(ザイフには)世間をにぎわすシステムトラブルが多々あり、その都度コミュニケーション能力が低いと言われてきた。内部統制も非常に厳しい状態と聞いている。一方フィスコは上場企業としてガバナンス、内部統制、AML、コンプライアンス等といったところをザイフのほうに指導していくことが必要」(田代社長)
フィスコ仮想通貨取引所は交換業者のなかでは金融庁とのコミュニケーションがうまくいっている「優等生」の部類に入る。金融庁が来年のFATF(金融活動作業部会)対日審査に向けて力をいれる資金洗浄対策についても随時当局と連携をとりながら対応。利用者保護についても足並みを揃える。
さらに今後は金融業界出身でフィスコのコンプライアンス部長である田代社長が、まずは「内部統制の立て直しをメインにやっていく」。(田代社長)
「仮想通貨交換業=金融」金商法に準拠してすすめる
「金融庁がやろうとしていることは賛成。これまではあまりにもルールがなさすぎた。<中略>『金融商品取引法(金商法)』に準拠するかたちでものごとをすすめることを意識している」
金融なみの内部統制を仮想通貨交換業に求め、金融とIT業界の大手を軸にすえて業界再編を陰から誘導する金融庁の動きについて、田代社長はきっぱりと述べた。
そのためにカギとなるのは金商法を理解する人材の頭数(あたまかず)と、金融の世界で「三つの防衛線」をベースとした組織づくりだ。これに資金投下できない業者は「やめたほうがいい」。だが「金融庁が8月10日に発表した中間考査で見るとボロボロ」だった。(田代社長)
「三つの防衛線」とは
リーマンショック以来、各国の監督当局は金融業者に対してきた「三つの防衛線」による内部統制の仕組みをつくることを促している。
第一の防衛線 ビジネス部門
第二の防衛線 リスク管理、コンプライアンス
第三の防衛線 内部監査部門
田島社長によると、「稼ぐ」ことに注力するビジネス部門である第一線ではなく、第二、第三の防衛線を強化できる業者が生き残るとみている。
目を引くマーケティング主導で成長してきた日本の仮想通貨市場が、大きな転換期を迎えているようだ。
ザイフとフィスコ仮想通貨取引所を合併させる考えない
また、田島社長は私見としながらも、買収が成立した場合、ザイフとフィスコ仮想通貨取引所をいまのところは合併させず、それぞれ独立させて運営していく考えも示した。
だが事態は流動的だ。今後フィスコ仮想通貨取引所の株主の利益に適うと判断されれば、段階的に統合していくこともあり得る。
その場合、ザイフに上場する仮想通貨が問題になることはあるのだろうか。だが今回はコインチェック事件の時とは異なるようだ。
「(ザイフに上場しているコインは)コインチェック事件の時に金融庁が問題視した匿名性のある仮想通貨ではなく、金融庁が認めているものだ。遠慮せずに継続していく」とした。
また、フィスコ仮想通貨取引所は新システムへの移行が完了した契機で「イーサリアム(ETH)やリップル(XRP)など(取扱い)通貨を増やしたい」と意欲をみせた。
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Source: 仮想通貨情報局