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トルコリラ ~崩壊の序曲か究極の押し目か

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<止まらないリラ安>
トルコリラが大きく値を崩しています。
今年序盤3.75近辺でもみ合っていたドルリラは、3月ごろから徐々にドル高リラ安が進行し、5月いったんリラ安が加速。その後少し戻してもみ合いを続けていましたが7月に入ってリラ安がさらに強まり、8月に入ってもう一段加速と、ロケットのような多段式のリラ売りを続けています。

<高金利通貨として人気のリラ>
大きく値を落とすトルコリラですが、日本の個人投資家の間では高金利通貨として人気が高い通貨となっています。トルコリラの政策金利は17.75%と、多くの業者でFX取引できる通貨としては、圧倒的な高金利を誇っています。
リーマンショックや2010年代以降の世界的なディスインフレの動きに各国の金利が低下、かつて高金利通貨といわれた豪ドルの政策金利が1.50%、NZドルの政策金利が1.75%まで低迷し、米ドルの方がまだ金利が取れるという今の状況だけに、高金利狙いのターゲットとして志向されてきた経緯があります。
取引量を公表している東京金融取引所のくりっく365での取引量をみると、NY市場で20円台前半の直近安値を付けた8月6日の取引数量が85859枚と、同日のドル円の16728枚の約5倍、8月に入ってからの5営業日の平均で見ても2倍弱と、トルコリラ円の取引が大活況となっています(活況といっていいのかどうかはわかりませんが、阿鼻叫喚かもしれないので)。なお、くりっく365はトルコリラ円の取引を始めた当初から、店頭FXに比べてリラの人気が高いといわれており、FX全体でリラの取引量がドル円を上回っているわけではありません、あくまで参考としての例示です。

<リラ安の背景>
このようにリラ安が進んだ背景ですが、二つあります。
一つは止まらないトルコの物価上昇です。
トルコはインフレターゲットを採用しており、消費者物価指数前年比5.0%をターゲットに、その上下2%を許容上限としています。しかし、昨年の平均物価上昇率が10%を超えるなど、ターゲットをはるかに上回る状況を続け、事実上の利上げに踏み切った昨年11月には12.98%に到達。その後少し落ち着くも10%を割り込むことはなく、直近5か月連続での上昇を見せて、10.23%→10.85%→12.15%→15.39%→15.85%と、上昇も加速気味となっています。物価の上昇とは逆に言うと貨幣価値の下落ということですから、為替市場でもリラ安が進むことは自然といえます。
もう一つは、エルドアン大統領の低金利志向です。
物価上昇が止まらないため、トルコ中銀としては金融引き締めを行い、物価を抑えに行きたいところです(そのためのインフレターゲットでもあります)。しかし、エルドアン大統領は以前から利上げを嫌う発言を繰り返しており、金利を上げるから物価が上昇するという持論を繰り返しています(普通に考えると、因果関係が逆です、物価が上がるから金利が上がる)。
そのため、トルコ中銀は2017年ごろから主要政策金利である1週間物レポ金利を事実上停止し、後期流動性貸出金利による資金供給に一本化する形で事実上の利上げを実施。その後も名目上のレポ金利を据え置く一方で、後期流動性貸出金利を引き上げるという形で対応してきました。
さらに、その対応でも物価上昇が止まらなくなった今年春からは臨時会合で後期流動性金利を引き上げ→レポ金利を後期流動性金利と同水準に引き上げて復活など、積極的な対応をとってきました。

<高まるエルドアンリスク>
しかし、ここにきてリラ安がさらに加速してきました。
エルドアン大統領のリスクがさらに強まったと市場が警戒していることが背景にあります。
6月の総選挙で再任を果たした大統領ですが、実はこの選挙、通常の選挙とは違って大きな意味を持つものでした。
今年4月の国民投票で、大統領権限を強化する憲法改正が認められ、6月の総選挙で選ばれた大統領は、これまでよりもはるかに強い権限が認めらえることになりました。議院内閣制をとっていたトルコですが、この憲法改正により大統領が国家元首と行政のトップを兼ねる体制となり、内閣の任命・罷免の自由、議会の解散権、司法の人事権などを掌握し、エルドアン大統領を止める人が事実上いなくなった格好です。
7月9日に新体制下での大統領についたエルドアン大統領は、財務相に娘婿を充てるなど、市場の不安を掻き立てる人事を発表。中央銀行については一応独立を認めていますが、圧力の高まりは必至という市場に見通しが広がりました。
そうした中で迎えた7月24日のトルコ中銀金融政策会合。15%を超える物価上昇に1%程度の利上げを見込んでいた市場を裏切り、中銀は金利の据え置きを発表。リラ売り加速のきっかけとなりました。
加速するリラ安に、中銀は今月6日に市中銀行が外貨通貨建て預金に対して中銀に預ける預金準備率を45%から40%に引き下げ、市場にドルの流動性を供給するなど、対応していないわけではありませんが、利上げができない中での不十分な対応と、逆に見切る形で、リラ売りを続けています。

<今後のリラ動向>
とはいえ、ここまで下がればそろそろという意識も出てきます。リラは下げ止まりを見せるのでしょうか。

現状ではかなり厳しいと言わざるを得ません。
リラ安による外貨建て債務の返済負担増、経常赤字の拡大、混乱する国内経済などの状況を考えると、トルコ中銀の積極的な金融引き締めで物価上昇とリラ安を止めないことには、この流れは止まらないように見えます。
しかし、エルドアン大統領は引き締めを嫌う姿勢を崩していません。
中銀の独立性は一応残っていますが、先月の大統領令で、これまで内閣が指名してきた中銀総裁などの人事について、総裁、副総裁、政策委員をすべて大統領が任命し、人気も従来から短縮すると発表。中銀への圧力は強まるなかで、積極対応を望むほうが酷です。
さらにここにきて米国人牧師の拘束問題などで米国とトルコの対立が激化。
トルコ経済の先行きへの不安がとどまるところを知らない状況に(先に挙げた大統領の娘婿であるアルバイラク財務相の手腕が未知数ということも、不安を誘っているようです)。

<通貨価値はゼロにはならない>
ではどこまで下がるのか。通貨価値はゼロにはならないという理論はありますが、かつてのジンバブエドルや直近ではベネズエラボリバルフェルテのように、ほぼ紙くずになることはあります。とはいえ、経済規模からいってトルコがそうなる可能性はさすがに相当低いと考えられます。
ただ、リラ安が進み対外債務の負担が広がり、米国との関係悪化でドル建ての新規の資金調達も難しくなるという状況で、まだまだリラ安が進む可能性は十分あります。例えばリラ円が10円になったときに、どれだけの投資家が耐えられるのかという話です。
また、リラ売りが加速したときに、FX市場がそれに耐えられるのか、取引停止による強制決済のリスクはないのかなどの不安もあります。

<リラに回復の目は>
では、まったく先がないのか。そう言い切ることも違うと思います。
まず、米国との対立ですが、牧師の拘束から始まった今回の状況については、両国間での話し合いが進んでおり、近いうちに解決が期待されています(さすがにこの件で米国を突っぱねることはトルコとしても出来ないでしょう)
続いて、より重要な物価上昇とリラ安ですが、その悪影響が目に見えてきている以上、大統領が一時的に持論を後退させ、中銀に積極対応を認めれば市場のムードも一気に変わります。実際のトルコ経済が上向くには残念ながら時間がかかりますが、相場はムードを受けて実体経済を先取りして動きますので、リラ安が収まること自体があり得ないわけではないです。
要は現状のままでは止まらない可能性が高く、リラの取引が実質終わるリスクまで意識される状況ですが、現状自体が変わる可能性はあるということです。

気を付けたいのが値ごろ感の買い。そろそろかなで止まる相場ではなさそう。当たり前ですが相場に絶対はないので、あれ?なんで戻ってるの、ってことになる可能性は否定しませんが、それを期待しての買いはリスクが高すぎると思います。

ドル円が小動きに終始するなど、主要通貨が落ち着いた値動きを続ける中で、大相場となっているトルコリラ。
状況変化をよく見極めて取引に臨みたいところです。
Source: ダックビル為替研究所 | Klug クルーク

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