シンガポールでは9月中旬、F1が開催される週末に向けて暗号資産(仮想通貨)関連企業が「Token2049」カンファレンスでのチャンスを狙って競い合っていた。しかし、あるベテラン伝統的金融機関はそれほど焦ってはいなかった。
シンガポールを拠点とするDBS銀行は、カンファレンスが行われたマリーナ・ベイ・サンズに本社を置く大手銀行で、顧客にステーブルコインを使用して伝統的な証券を購入させるために必要な3つのライセンスをすべて保有している。しかし、競合他社が積極的な取り組みを見せるなか、DBSはまだそれを実行に移していない。
DBS以外にシンガポールで3つのライセンスをすべて保有する唯一の企業であるメタコンプ(MetaComp)は、顧客が保有する暗号資産で証券を購入できるようにしたのは同社が初めてと語った。ただし、まずはステーブルコインを法定通貨に交換しなければならない。
長期戦に向けて
CoinDeskはDBS銀行の法人バンキンググループのデジタル資産責任者エヴィ・テュニス(Evy Theunis)氏に、同行がこのトライアスロンに参加できるように思えるにもかかわらず、参加していない理由を聞いた。DBSは現在、デジタル資産のカストディ、上場と取引のためのデジタル取引所、セキュリティトークン、同じアプリを使って伝統的資産と暗号資産を一緒に管理できる機能を提供している。
「トライアスロンは良いたとえだ。まだ冬だというのに、私たちは泳ぎ続けている。非常に特化した企業ほどは深く潜っていないかもしれないが、私たちも多くのことを行っており、長期戦に向けて汗を流して取り組んでいる」
ステーブルコインサービスを提供しない技術的な理由についてテュニス氏は、DBSが処理するトークンのトラッキング方法に関連していると説明した。ステーブルコイン以外の暗号資産の場合、DBSはトークンをシステムに入れる前にトークンが触れたすべてのウォレットを追跡する。
「ステーブルコイン用にそんなことをすることを想像できるだろうか? ステーブルコインはマルチチェーンであり、ブリッジをまたぐなど、トラッキングは技術的に難しい」とテュニス氏は述べ、このためDBSはしばらくの間、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、エックス・アール・ピー(XRP)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ポルカドット(DOT)、カルダノ(ADA)の取引のみを提供してきたと語った。その理由は「当行に入ってくるすべての暗号資産が完全に信頼できるものであって欲しいから」だという。
スポーツ用語で言えば、DBSは中国、香港、インドネシア、韓国における主要プレーヤーであり、間違いなくこの地域における金融界のエリウド・キプチョゲ(マラソンの現世界記録保持者)だ。デジタル資産をトライアスロンにたとえるなら、DBSは現役のチャンピオンではないかもしれないが、勝ち方を知っていることは間違いない。
暗号資産のボラティリティを考慮すると、DBSは14年連続で「アジアで最も安全な銀行」としてブランド認知されており、暗号資産に向けたDBSの一歩一歩が、この分野の正当化に向けた大きな一歩となっている。
DBSは2020年、デジタル資産プラットフォームであるDBS Digital Exchangeを立ち上げたとテュニス氏は述べた。
「私たちは、短距離走のためではなく、物事がどのように進化するかを見極めるために早期に着手する」
Token2049のパネルディスカッションでテュニス氏は、DBSの預かりデジタル資産は第2四半期末時点で前年比約150%増加したことを明らかにした。ちなみに、CoinMarketCapによると、同期間中にビットコインとイーサリアムはそれぞれ50%、80%上昇した。
規制当局との緊密な協力
テュニス氏は、DBSのデジタル資産事業を指揮している。同氏はブリュッセル出身だが、シンガポールを拠点に10年近く活動しており、暗号資産に対する西洋と東洋の理解のギャップを埋めるユニークなリーダーだ。
「規制当局と業界が緊密に協力することで、エコシステム全体が恩恵を受ける。これは、とりわけシンガポールでは明白だ。この関係主導のアプローチはイノベーションの重要な原動力であり、他の地域のモデルになり得る」
DBSの筆頭株主および支配株主はシンガポール政府系ファンドであるテマセク・ホールディングス(Temasek Holdings)。DBSのデジタル資産戦略が、シンガポールの金融政策と歩調を合わせているように見えるのも当然だろう。
このことは2022年2月、DBSのピユシュ・グプタ(Piyush Gupta)CEOが、年内にデジタル資産のリテール取引を開始する計画を明らかにしたことでも明白になった。しかしその直後、シンガポールと密接な関係を持つ2つの企業、ステーブルコイン発行会社のテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)と暗号資産ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital:3AC)が破綻。シンガポールは規制を強化し、3ACを批判。このセクターを管理するするためにステーブルコイン規則を提案した。DBSのリテール取引計画は、それ以来、中断している。
焦点は機関投資家
テュニス氏は、DBSがデジタル資産のリテール取引を開始するつもりはないことを繰り返しながら、「今、私たちは機関投資家に焦点を当て、適格投資家の分野で進化を続けている。少し前に、私たちは条件を満たしたすべての適格投資家が、取引所でデジタル資産を購入できるようにした」と語った。
テュニス氏は、具体的な機関投資家の名前をあげることなく、「多くの伝統的なプレーヤーが準備を整えているのを目の当たりにしてきた」が、彼らは暗号資産について「あまりアクティブではない」と語り、様子見をしているのはDBSだけではないことをうかがわせた。
DBSは政府関連のプロジェクトにも深く関わっており、プロジェクト・オーキッド(Project Orchid)では、プログラム可能なマネーを政府発行のクーポンに使用し、プロジェクト・ガーディアン(Project Guardian)では、トークン化されたシンガポール・ドルをトークン化された日本円で購入した。
また、中国の顧客のために電子人民元取引を完了させ、シンガポールとインド間の輸送のために海運で不可欠な書類である電子船荷証券(eBL)の最初の「ライブ」取引を完了させた。
「これまで、この類の取引ではスケーラビリティが問題だったが、ポリゴン(Polygon)でeBLの所有権をNFTとして発行することで問題を解決した。私たちのような金融機関は、開発者に依存してブロックチェーン上のeBLなどのブロックチェーンテクノロジーをスケーラブルに導入できるようにしている。だからこそ私たちは、開発者と協力するためにこのような取り組みに参加している」とテュニス氏。
「開発者には、金融機関に自分たちのユースケースについてもっと話をすることを勧めたい。金融機関との話は時間がかかる」
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/203695/
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Source: 仮想通貨情報局