アメリカでは、ドルの国内での購買力の低下が連日見出しを飾っているが、アメリカのインフレは、世界中で驚くような影響をもたらしている。ここ半年で、ほぼすべての主要通貨が、ドルに対して劇的に値下がりしているのだ。このことは、通貨供給数を執拗なほどに重視する暗号資産(仮想通貨)支持者には、疑問を投げかける形である。
中国の人民元は4月以降、ドルに対して12%値下がり。ユーロや円など、歴史的に強めだった通貨も、同様に値下がりしている。イギリスのトラス新首相による、賛否両論ある財政関連の決断によって、イギリスポンドは、さらに急激に値下がり、4月の初めと比べて18%安となっている。
このような値動きは、暗号資産業界でよくある金融の考え方をする人にとっては、特に驚きかもしれない。ビットコインは供給量に上限があることを理由に、長期的なインフレヘッジとして盛んに売り込まれ、いわゆる貨幣インフレに重点が置かれてきた。貨幣インフレとは、同じ数のモノを求めてより多くの通貨が競い合い、価格が上昇する状態だ。
しかし、通貨供給がアメリカのインフレの一部始終だとすれば、ドルは世界の通貨に対して価値を失っているはずだ。アメリカの新型コロナウイルスに対する財政支出は先進国の中で2番目に多く、その大半は債務によってまかなわれていたのだから。
しかし、アメリカが日本や中国より多くのお金を借り、より多くの通貨を増刷してきたのだとしたら、円や人民元が国際市場でより価値を高めているべきなのではないだろうか?
この難解な問題に答えるには、ビットコイナーたちが採用するオーストラリア学派的通貨主義とは様々な面で異なる、インフレに対するより繊細な見方が必要となる。
米シンクタンク経済政策研究所(Economic Policy Institute:EPI)のデータによれば、ここ1年強ほど、世界中でインフレは同じような状況。パンデミック対策での支出額や、失業率で測ったパンデミック後の経済回復とはほとんど関係がない。
そのデータに基づきEPIは、通貨増刷よりも、サプライチェーンの混乱、物価の上昇、消費パターンの変化が、より大きくインフレの要因になっていると主張する。つまり問題は、お金があり過ぎることではなく、モノが少な過ぎて、しかもモノが必要な場所に届いていない点なのだ。
安全への逃避
一方、ドルの為替レートに影響を与えているのは、アメリカでの物価上昇のより技術的な二次的影響だ。米連邦準備制度理事会(FRB)が国内でのインフレに対処するために利上げを行うことで、米ドルや米国債の投資先としての魅力がはるかに高まる。
それがアメリカの株価が値下がりしている一因であり、同じ理由で、世界中の投資家たちは円、ユーロ、ポンド、人民元をドルに変えて、米2年国債の低リスクな4%の利回りを享受しようとしているのだ。
そして、3つ目の要因。暗号資産の世界で金融について考えている人にとっては、大切な教訓を含むものだ。
アメリカよりもはるかに利回りの良い国債を発行している国の通貨が存在している。例えば、トルコの2年国債の利回りは13%超え。しかし、テラ(Terra)のアンカープロコトルが5月に破綻した時に、預金していた人たちが思い知った通り、利回りとは数字に過ぎないのだ。
トリコリラでの13%は、米ドルでの4%に比べると魅力は薄い。アメリカ経済の基本的生産性に対して、世界からより多くの信頼が寄せられていることと、アメリカの通貨管理が信頼できるものであることがその理由だ。
米国債は、デフォルトリスクがゼロに近いと考えられている一方、実体経済が安定しない国や、財政管理が疑わしい国の国債保有者は、デフォルトのリスクも考慮しなければならない。
世界的景気後退の懸念という要素が、その状態をさらに加速させている。インフレとアメリカの利上げがなくてもおそらく、経済的不透明感に常に伴う「質への逃避」の結果として、ドル高になっているだろう。
新しい通貨を開発することを本質的に志向する業界や投資家にとって、これは極めて重要な教訓だ。強気相場では、ルナ(LUNA)、セルシウス(CEL)、マジック・インターネット・マネー(MIM)などの作られたトークンの形で、預金者に高利回りを提供する多くの競争があった。
しかし、リラやポンドとまったく別物とも言えないこれらのトークンは、身近な人からも信頼されていないようなリーダーたちによって、不確かで不安定な基盤の上に作られたものだった。
単なる供給数ではなく、そのような深く全体的な構造上の弱みが最終的に、そのようなトークンの崩壊につながったのだ。つまり、状況が本当に厳しくなった時には、通貨に対する信頼は数よりも質に関係するものなのかもしれない。
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/161553/
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Source: 仮想通貨情報局