イーサリアムは今月、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと歴史的な転換を完了させた。分散型台帳に取引を追加するために利用していたマイナーに依存するエネルギー負荷の高いシステムを、正式に放棄したのだ。
暗号資産(仮想通貨)の世界では、今回のアップグレード「Merge(マージ)」は祝日のように扱われた。音楽にスピーチ、特別ゲストまで迎えたウォッチ・パーティーが開かれ、バーチャルの世界でも、実世界でもお祝い騒ぎであった。
最大規模のMergeウォッチ・パーティーはイーサリアム財団が主催したもの。イーサリアム共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏をはじめとするコミュニティリーダーたちが登場し、ピーク時には4万1000人がYouTubeで視聴するという盛況ぶりだった。
世界の多くの地域で夜にあたる時間にMergeが実施されたことも、興奮を高めた。夜中の3時まで眠らずに、イーサリアムが最初のPoSブロックを完了させるのを見届けるのは、大晦日から新年に切り替わるのを待つような感じであった。さらにMergeと大晦日に共通したのは、わずか一瞬で、世界が1つの現実から別のものへと切り替わっていくという興奮の高まりである。
しかし、長年待ち望んだ後なのに、白黒のコンピューターターミナルに表示された解像度が低く読みにくい文字によってMergeの成功が知らされたことには、少し拍子抜けせずにはいられなかった。新年のお祝いなら、少なくとも花火くらいは用意されているものだ。
それでもイーサリアムはすでに、変化の兆しを見せ始めている。
エネルギーコスト削減
Mergeから最もわかりやすい形で最初に感じられた影響は、イーサリアムのエネルギー消費量に対するものだ。マイニングからステーキングへとシフトしたことで、環境への影響について悪評を集めるブロックチェーンテクノロジーの要素を手放したのだ。
PoSシステムは、前任のPoWに比べ、エネルギー効率がはるかに高い。
イーサリアム財団のリサーチャー、ジャスティン・ドレイク(Justin Drake)氏は、Mergeによって、世界のエネルギー消費量が0.2%減少すると予測している。
この試算には異論もある。多くのイーサリアムマイナーは短期的には、イーサリアムクラシックなど他のPoWネットワークへと避難しているからだ。かつてのイーサリアムマイナーが他チェーンへ移動したことで、Mergeが暗号資産業界全体の温室効果ガス排出量の削減にもたらす影響力は、わずかに弱められている。
しかし長期的には、PoWブロックチェーンでのマイニングは、事業を持続できるほどの収益性を生まない可能性が高い。
イーサリアムからフォークしたイーサリアムPoWの支持者である著名イーサリアムマイナー、チャンドラー・グオ(Chandler Guo)氏も、次のように認めている。「無料で電気が手に入って、イーサリアムPoWでもマイニングを続けられるマイナーもいる」が、「残りの90%は破綻するだろう」と。
ビットコインへと移動することは、現実的な選択肢とはならない。イーサリアムのマイニングに最適のコンピューターチップ(GPU)は、ASICと呼ばれる専用のチップが一般的なビットコインでのマイニングには向いていないのだ。
環境負荷に関するMergeによる即時的影響は、他のPoWチェーンの存在によって鈍っているが、長期的なプラスの影響の見通しは明るい。
新しいバリデーター
イーサリアムの新しいバリデーターシステムによって、チェーンを稼働させる役目を担う新しい登場人物が生まれた。それに伴って、ネットワークの中央集権化をめぐる新しい懸念も生まれている。
Mergeからまもなく、注目を集めたツイートがある。ノーシス・チェーン(Gnosis Chain)の創業者マーティン・コッペルマン(Martin Köppelman)氏が、イーサリアムの最初の1000のPoSブロックのうち420が、わずか2つの組織によって提案されたものだったことを指摘したものだ。その2つの組織とは、ステーキングプールのリド(Lido)と、アメリカに拠点を置く暗号資産取引所コインベースである。
イーサリアム開発者たちは、マイニングに代わるより分散化した安全なモデルがPoSだと主張。PoSでは、32イーサ(ETH)持っている人なら誰でも、特別な機器を必要とせず、ネットワークをサポートできるからだ。
イーサリアム財団のティム・ベイコ(Tim Beiko)氏がMergeに先立って説明した通り、「PoWは物理的なリソースを、ネットワークのセキュリティに転換するメカニズム。ネットワークをより安全なものにしたければ、さらに多くの物理的リソースが必要となる。PoSの場合は、金銭的リソースをセキュリティに転換する」のである。
しかし、ネットワークを安全にするのに必要なリソースの50%以上を、リド、コインベース、クラーケン、バイナンスなどの一握りの組織が確保してしまった。それが可能になったのは彼らが、32ETHを持たない人たちが資産をプールしてバリデーターになれるようにしたためだ。端株の暗号資産バージョンといったところである。
中央集権化は、PoSだけの問題ではない。コッペルマン氏も、PoWを使い続けるビットコインも中央集権化の問題を抱えることを指摘する次のツイートを、前述のツイートに続けた。「いや、親愛なるビットコインのファンの皆さん。ビットコインの方がマシということはない。わずか4つの組織が、72%より多くを掌握しているのだ」
しかし、個人マイナーが所有、運営するコンピューターも含むビットコインのマイニングプールと、様々な所有者がステーキングしたETHを含むイーサリアムのステーキングプールを直接比較することは困難だ。
例えば、ビットコインマイナーはプールから機器を取り除くことができるが、イーサリアムのステーカーは6〜12カ月先のアップデート「シャンハイ」までは、ステーキングしたコインを取り除くことができないという点は、両者の大きな違いの1つである。
つまり、イーサリアムのプールを運営する側は、少なくとも今のところ、ユーザーが怒って離れていってしまうことを恐れずに動くことができる。ちなみにリドは、いくつかの異なるバリデーターサービスでステーキングを分散させているので、単独の組織や個人がネットワークの利益を最優先にせずに一方的に動くことは難しくなっている。
PoSで悪化するかどうかは別として、中央集権化はなぜ問題となり得るのか?最近の事例からも、中央集権化によって、規制当局がブロックチェーンの運営に影響力を行使するのが一段と簡単になることが明らかになっている。
取引の匿名性を高めるために使われるイーサリアムのミキサープログラム、トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)に対する米財務省の制裁によって、バリデーターたちは、制裁を遵守するためにトルネードに関連する取引を止めなければならないかどうか決断を余儀なくされている。
十分な数のバリデーターが、トルネード関連の取引を含むブロックを提案、承認することを拒否した場合、それらの取引がイーサリアムの台帳にたどり着くことは難しくなる。
米証券取引委員会(SEC)が先日、イーサリアムが自らの管轄化にあると考えていることを示唆したことを受け、中央集権化の懸念がこの先、大きな注目を集め続けると予想される。
発行量の減少
Mergeの最も目につく影響は、ETHの新規発行数だ。
イーサリアムがPoSにアップデートしたことで、ブロックごとに発行される新しいETHの数は劇的に減少。ネットワークアップグレードEIP-1559で導入された焼却メカニズムのために、長期的には、イーサリアムがデフレ的になる可能性がある。つまり、トークン供給量が時間とともに減少する可能性があるのだ。
イーサリアムは今のところまだ、デフレ的ではない。Merge後、約4000の新しいETHが発行された。しかし、ultrasound.moneyの試算によれば、これはPoWであれば発行されていたと考えられるETH(約7万)より約95%も少ない数である。
ETH価格はMerge以降、大幅に下落した。しかし、発行数の減少は、ETH保有者が望みを持ち続ける理由とされている。流通するETHが少なくなれば、理論的には各トークンの価値は上がるからだ。
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/160980/
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Source: 仮想通貨情報局