スクロール(Scroll)、マター・ラボ(Matter Labs)、ポリゴン(Polygon)が先週行った3件の発表には、共通点があった。各社が、市場に最初にzkEVMを届ける最初の会社となると主張したのだ。
「John Adler I:
それぞれ初のzkEVMを発表したスクロール、ポリゴン、zkSyncおめでとう!」
zkEVMは、ゼロ知識証明(ZK)ロールアップの一種。イーサリアム上で運営されるレイヤー2ネットワークで、取引を処理し、それらをまとめてイーサリアムのレイヤー1メインネットに送り返すものだ。
ZKロールアップは高度な暗号化技術を用い、イーサリアムの混雑したレイヤー1ネットワークの負荷を低減する。その結果として、ユーザーにとっての取引コストを下げるなど、さまざまなメリットをもたらすのだ。
zkEVMはすべて、同じゴールを目指している。イーサリアムレイヤー1ブロックチェーンを使っているのと変わらないZKロールアップ体験を生み出すことだ。つまり開発者たちは、コードを変えたり、使い慣れたEVM(イーサリアム・バーチャル・マシーン)ツールを諦めることなく、既存のスマートコントラクトを移動させることができるのだ。
EVMは、ある特定のハードウェアやソフトウェアというよりは、ルールや規格、ソフトウェアパッケージの集合体だ。同様のソフトウェアを実行しているさまざまなコンピューターでシェアされると、共有された規格のセットが、1つのネットワークへと融合する(イーサリアムもそのようなネットワークの1つであるが、他のブロックチェーンの多くも、EVMのさまざまなバージョンを採用している)。
しかし、3つの会社が同時に、zkEVMを「初めて」作ると主張するとはどういうことなのだろうか?その答えは、本当のzkEVMを作り出すというのが何を意味するのかということにかかっている。
この記事では、あらゆるタイプのロールアップを説明することはしないが、これまでゼロ知識証明は、異なるアドレス間でトークンを送ったり、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を交換したりなど、いくつかのユースケースにしか適用されていない。
イーサリアムスマートコントラクトをサポートすることを狙うゼロ知識証明zkEVMは、ごく最近まで、はるか未来のものだと思われていたのだ。
一足はやく市場に登場したオプティミスティック(Optimistic)ロールアップと比べてみよう。こちらは、数多くのセキュリティやユーザーエクスペリエンス面でのメリットをもたらす汎用zkEVMだ。将来的には、イーサリアムアクティビティのメインハブとして、イーサリアムのメインネットに取って代わると期待されている。
スケジュール競争
3つのチームがそれぞれ、「初」のzkEVMを生み出したと考えている理由としてはまず、競合が似たようなペースで動いていることを本当に知らなかった、という可能性がある。
マター・ラボが、2023年第1四半期に初のzkEVMを市場に届けると発表した時には、ポリゴンがはやくも今年の夏には、zkEVMテストネットワークを立ち上げようとしていることは知らなかったのだろう。
そしてポリゴンも、市場に初登場するzkEVMになると発表した時には、ポリゴンの2023年前半でのローンチ計画に先立ち、今年の末を目処に、スクロールのzkSyncがイーサリアムのメインネットでのローンチ準備を整えていることを知らなかったのかもしれない。
暗号資産の世界における予定は頼りにならないことで有名であり、スクロール、マター・ラボ、ポリゴンのどのロードマップも、鵜呑みにするべきではない。
しかし、スクロール、マター・ラボ、ポリゴンが初のzkEVMを市場に届けると言っているのは、ローンチのスケジュールだけが理由ではない。真のzkEVMとは何か、という点にも意見の不一致があるのだ。
EVM相当とEVM互換
ポリゴンは先週、初のEVM相当のZKロールアップを市場でローンチすると発表して、批判を受けた。一部の人からすれば、ポリゴンのロールアップは、EVM相当というより、EVMと互換性があると言った方が良いものだからだ。
それでは、互換性と相当性の違いは何だろうか?
イーサリアム向けの2つの主要オピティミスティックロールアップ、アービトラム(Arbitrum)とオプティミズム(Optimism)は、EVM相当だと謳っている。
つまり、アービトラムやオプティミズム上で開発をする体験は、イーサリアム上での開発と100%同じということ。開発者たちは、イーサリアムメインネット上で開発を行うのと同じツールとフレームワークにアクセス可能で、レイヤー2チェーンに直接移動させたとしても、レイヤー1のコントラクトが壊れてしまう心配はないのだ。
EVM相当というのは、開発者たちにとっては非常にありがたいことだ。レイヤー1からレイヤー2の移行のコストがはるかに低くなるからだ。
ユーザーも、EVM相当の恩恵を受けることができる。オプティミズムやアービトラムなどのEVM相当チェーンのユーザーは、ロールアップ固有のウォレットやその他のツールを使って無理矢理間に合わせる必要はなく、メタマスクなどのおなじみのアプリを諦めなくて良いのだ。
EVM互換性というのは、EVM相当よりも定義がゆるいものだ。開発者やユーザーとしてのエクスペリエンスがイーサリアムとまったく同じであるのではなく、EVM互換性を持つチェーンは、イーサリアムで使われるのと同じツールやソフトウェアフレームワークすべてに必ずしも接続できるとは言えない。
さらに開発者は、スマートコントラクトをEVM互換性を持つブロックチェーンに移動させるために、スマートコントラクトを書き直す必要があるかもしれない。しかも時には、イーサリアムのネイティブ言語「ソリディティ(Solidity)」とはまったく異なるプログラム言語でだ。
開発者たちがソリディティを使ってスマートコントラクトを記述することができたとしても、ロールアップがすべてのオペレーションを完全にサポートしていない場合もあり、バグやその他開発作業の悩みの種が生まれる。
ユーザーは、EVM互換性のあるロールアップとイーサリアムの間で資産のやり取りをすることはできるかもしれないが、そのためには、メタマスクではない特別なウォレットが必要となるかもしれない。
ポリゴンはEVM相当か?
ポリゴンが先週、初のEVM相当zkEVMを市場に届けると発表した時、ポリゴンが提供するロールアップの仕様は、EVM相当というよりは、EVM互換性があると言った方が良いと指摘する人たちがいた。
6月のツイッタースレッドで、スクロールのルオチュウ・チャン(Luozhu Zhang)氏は、zkEVMの3つのタイプを説明した。バイトコードレベル、言語レベル、コンセンサスレベルだ。先週発表されたアプリケーションすべては、最初の2つのカテゴリーに当てはまる。
zkSync 2.0は、言語レベルのカテゴリーだ。開発者はソリディティでスマートコントラクトを記述することができるが、zkSyncがそのコードを舞台裏でYulという別の言語にトランスパイルする。そこからさらに解釈し、ゼロ知識証明ロールアップを支える高度な暗号化を施すのだ。
zkSyncを手がけるマター・ラボは、そのメリットとして、ロールアップに特定の強み、とりわけ、演算負荷の高い暗号化証明を行う方法に関する強みを挙げた。
逆にマイナス面としては、zkSyncは普通の定義でいけば、EVM相当ではなく、EVM互換性を持つと言えるものだ。マター・ラボは、長期的には問題とはならないと言っているが、zkSyncがあらゆるイーサリアムツールと1対1で互換性を持たない可能性があるのだ。
スクロールとポリゴンはどちらも、zkEVMでバイトコードレベルのアプローチを採用している。
このようなアプローチは、トランスパイラーのステップを完全に除外するもの。つまりソリディティコードを、コンパイルと解釈の前に別の言語に変換することはないのだ。これによって、EVMとの互換性が向上する。しかしそれでも、聞く人によっては、スクロールの方がポリゴンよりも「真の」zkEVMとなるような差異が存在する。
暗号資産分析企業メッサーリ(Messari)は先週、レポートで次の通り説明した。
「(真のEVM)議論の一部は、EVMのバイトコードが直接実行されるか、まず解釈されてから実行されるかどうかという点にある。つまり、ソリューションが公式のEVM仕様と同じではない場合、真のzkEVMとは考えられないのだ。このような定義でいけば、スクロールは他のものと比べて『真のzkEVM』と呼べるかもしれない」
メッサーリによれば、「ポリゴンは、バイトコードを人間が読めるようにしたものである各オペコードを表現するために、新しい一連のアセンブリコードを使う。そうして、コードの動きをEVM上で異なるようにできる」のだ。
つまりポリゴンは、バイトコードカテゴリーにおける主要な競合スクロールと比べて、EVMに相当する度合いは少し劣るかもしれない。それでもポリゴンは、この差異こそが競合よりも優れたプロダクトを可能にする要素だと主張するだろう。
マーケティングによる歪み
先週のzkEVMにまつわる発表は、テクノロジーの驚異的な進展を象徴していたが、暗号資産業界で何度も証明されてきた通り、極めて技術的なコンセプトすらも、マーケティングによる歪曲の影響を免れない。
それでも結局のところ、EVM相当性と互換性の違いといった小さな技術的違いの定義は、あまり明白ではない。
スクロールの共同創業者サンディ・ペン(Sandy Peng)氏が、次のように語った通りだ。
「定義については、はっきりとしたコンセンサスは存在しない。(スクロールの)リサーチチームは、特定のナラティブや見解に傾いているようだが、それはまったくもって決定的なものではない。あらゆるものの意味について、私たちのチーム内でもコンセンサスは存在しないくらいなのだ」
さらに曖昧(そしておそらくそれほど重要ではない)なのは、誰が「初」のzkEVMと正当に主張できるのか、という点だ。
「『初』というのは、非常に哲学的なコンセプトだ」と、ペン氏は説明し、「初めて発表するのか、初めて始めるのか、初めてメインネットを実現するのか、何をもって初とするのか…(中略)すべての議論を収拾させて、デバッグをするのには数カ月、あるいは数年かかるかもしれない」と続けた。
長い目で見れば、先週発表されたすべてのzkEVMが、まだ耳にしたこともない他のいくつかのものと並んで、新しいテクノロジーやロールアップソリューションへと融合し、イーサリアムは現在よりはるかにアクセスしやすいものになるだろう。
スケジュールや定義をめぐる競争は、おまけに過ぎないのだ。
参考資料:https://www.coindeskjapan.com/155653/
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Source: 仮想通貨情報局