米国では6兆円規模市場ともよばれる「血液検査」市場。病院における順番待ちをはじめとする非効率な部分が多く急速に伸びているとは言い難いが、高齢化社会の到来とともに大きなポテンシャルを持つ分野だ。世界一の企業家といえるビル・ゲイツ(米マイクロソフト共同創業者)やジェフ・ベゾス(米アマゾン創業者兼CEO)も、血液検査を通してがんの早期発見を実現するスタートアップに投資しており、期待値の高さは計り知れない。この「血液検査」分野で新たな血液採取方法と仮想通貨(トークン)の力を使って「血液のトークン経済」を実現しようとする日本のプロジェクトがある。株式会社マイクロブラッドサイエンス(東京都千代田区)が展開する「Lifee(ライフィー)」だ。
目次(文中リンクへ飛びます)
- 「血液検査」はビル・ゲイツも注目する分野
- 日本の非効率な「血液検査」を変える「Lifee」
- 東京医科歯科大や技術力のある企業との連携で「血液を傷めずに採る」イノベーションを実現
- Lifeeの「血液検査」キットで簡単に採血(ビデオ)
- Lifeeアプリでの血液検査の結果の見方
- 「自分の健康は自分で守る」もWEB3.0の思想
- 超高齢社会を支える開かれた「仮想通貨経済」を作る
「血液検査」はビル・ゲイツも注目する分野
昨年末、ビル・ゲイツは「今後の25年を担う人」として、スタンフォード大学のステファン・クウェイク教授を挙げている。クウェイク教授は血液検査研究の先駆者で、血液検査を通した早産、感染症、がん等の早期発見に取り組んでいる。ゲイツ氏によると、同教授が開発する血液検査手法は従来の検査よりも安価で、検査を行うために必要な装置と医療従事者の訓練も最低限に抑えることができるからだ。さらにゲイツ、ベゾスは両氏とも、血液検査を通してがんの早期発見を目指す米スタートアップ「Grail」に投資している。
「非侵襲的血液検査こそが未来の医療だ」ビル・ゲイツ氏(写真:ロイター)
ゲイツ氏は「非侵襲的(体内への器具挿入が最小限の)血液検査こそが未来の医療だ」と断定している上、「これまでよりも正確、安価、かつ迅速な診断により治療や予防のあり方が革命的に変わる」とかなり期待を寄せていることがわかる。ゲイツ氏の見立て通りになれば、従来の「痛い」検査ではなく身体に負担が少ない、かつ安く簡単に行える血液検査が今後主流になっていくはずだ。
非効率な日本の「血液検査」を変える「Lifee」
日本でも「採血検査」には様々な「苦痛」がつきものだ。学校や会社を丸一日休んで挑む健康診断当日は長い列で待たされた挙句、太い針で大量の採血をされて「うえっ」となったことがある人も多いはずだ。検査結果が送られてくるのも遅い。そして、検査結果は病院間で共有されないなど、あまりにもアナログで非効率的なのだ。
現状の血液検査には苦痛がつきものだ。(写真:Shutterstock)
これと対照的に、「Lifee(ライフィー)」が実現しようとしている血液検査は驚くほど効率的だ。Lifeeが提携するジムやマッサージセンター、採血専門施設に赴き、指導員のアシスト*のもと自分で指先から微量採血(60〜150マイクロリットル)を行うだけで、あとは同名スマホアプリで検査結果を確認・追跡できる。結果がでるまでの日数は採血してから平均2日間、最短で1日だ。検査に必要な量も病院で行う採血に比べ約100分の1以下の量で済む。(*指導員が行うのは医行為に該当する穿刺、血液のしぼり出し以外に限定される)
Lifeeは若年層も気軽に使えるサービス展開を目指す。
現在検査できるのは生活習慣病13項目、腫瘍マーカー6項目*、B型・C型肝炎の検査だ。異なった検査機器や試薬を使う事で対応できる検査項目は多岐にわたる。今後、市場のニーズや既存の商的サービスとの兼ね合いに注視しながら、「酸化ストレス抗酸化力チェック」をはじめ各種ホルモン値、アレルギー、インフルエンザ、感染症、腫瘍等の検査を扱う事を検討しているという。近い将来これら簡単な検査だけであれば病院に行く必要がなくなるかもしれない。(*男女別に4項目を組み合わせ)
東京医科歯科大や下町の企業との連携で「血液を傷めずに採る」イノベーションを実現
そもそも「Lifee(ライフィー)」のような仕組みを可能にしたのは、マイクロブラッドサイエンス社(以下MBS)が開発した採血器具「MBSキャピラリー」だ。MBSでは、これまで何十年かかっても実現できなかった「少量の指頭血を傷めずに採る」技術を、国立東京医科歯科大学との共同研究の成果として確立。技術力のある企業を探しあて採血器具も完成させた。
A.採血チップ B:微量血液採取容器 C:微量血液遠心分離容器
指先から採った血液検査の精度については成人ボランティア60人を対象とした精度検証を実施。日本臨床検査医学会の機関紙「臨床病理」(第65巻第3号)において、MBSの採血器具による「指頭微量血液検査が肘静脈血検査と変わらない良好な結果」であることを報告している。ちなみに論文に名を連ねる相川直樹・慶応義塾大学名誉教授は、米ハーバード大学研究員を経て慶応義塾大学医学部教授、慶応義塾大学病院長、慶應医師会長等を歴任した著名な医師 / 医学博士だ。
ちなみにこのMBSキャピラリーは日本以外にも、保険市場に課題のある米国や人口の多い中国でニーズが大きく販売実績もあるという。
Lifeeの「MBS微量採血キット」で簡単に採血
百聞は一見に如かず、ということで血液検査に必要な器具をワンパッケージにした「MBS微量採血キット」で実際に採血している様子を収めたビデオを見てみよう。
見ての通り、わずかな時間でセルフ採血が完了している。慣れてしまえばあっという間に自己採血が可能となる。
コインテレグラフのチームメンバーが実際試してみたところ穿刺については「ペンを指先に一瞬チクっと刺す感じ」であまり痛くなかったそうだ。採血器具の扱いはシンプルで簡単、1人でできる。病院に行って注射をすることと比較すると「採血は自分でやろう」という気になりそうだという。また、心配性なスタッフは「体調が悪い時に重要な病気にかかったのではないかとの疑いを打ち消すために絶対にやる」というコメントも聞かれた。値段次第では大きな需要が見込めそうだ。
Lifeeアプリでの血液検査の結果の見方
Lifeeアプリで現在対応しているのは「生活習慣病検査、ガン検査、肝炎検査」だ。
肝機能検査
・TP/ALB:体に必要なタンパク量をみる検査
・AST/ALT/Y-GTP
肝臓や胆のう・胆管をみる検査
脂質代謝検査
・TC/TG/HDL-C/LDL-C
動脈硬化リスクや脂質異常症をみる検査
糖代謝検査
・HbA1c
糖尿病のリスクをみる検査
腎機能検査
・BUN/CRE
腎臓機能の状態をみる検査
尿酸検査
・UA
痛風のリスクをみる検査
Lifeeアプリでは、これらの検査項目について、数値とともに色分けで「正常値・軽度の異常値・中度の異常値・医師へ要相談」や「基準値内・外」のどれに該当するか教えてくれる。将来的にはこれら数値について相談できる「医師との連携機能」が搭載されるという。
ちなみにLifeeが推奨する「生活習慣病」の血液検査頻度は3か月ごとだ。回数を重ねていくことで、アプリがチャートを生成してくれるので、健康状態の変化チェックに役立つ。
「自分の健康は自分で守る」もWEB3.0の思想
ただし単なる血液検査の結果報告だけで止まらないのが、Lifeeの面白いところだ。電子カルテの統合もままならない閉塞感のある国内医療データ市場を背景に、仮想通貨をつかったインセンティブの仕組みを導入しようとしているのだ。
これまで様々な郵送型の遺伝子検査サービスが出回っているが、共通の課題は「継続してサービスを使うためのモチベーション」だった。ユーザー行動としては1回試してみて終わり、というパターンが多かった。
Lifeeでは現在一回の血液検査にかかる費用は5000~8000円となるが、これを今後ゼロに近づけていくことを狙う。ここで鍵となるのがハイパーレッジャー基盤のブロックチェーン「Lifeeチェーン」に個人情報と切り離された形で蓄積されていく「個人の血液検査結果データ」だ。
「医療カルテ統合の実現は日本では難しい」MBS関係者
現在、非常に敏感な個人情報となるカルテを握っているのは医者だ。患者へのデータ共有はおろか、病院間でのデータ移転も困難な状態が多い。患者が長い生涯にわたって自身の健康のライフタイム(生涯)データを把握するのが困難になっている原因だ。
Lifeeではあくまでもユーザーが自身の血液検査結果のオーナーとなり、健康管理のイニシアティブを取り返すことができる。今後、健康管理にコミットしつつ、その成果を研究機関や企業等に対して選択的に情報を開示することで仮想通貨を対価として受け取ることもできる仕組みになっていく。
既存の健康検査サービスでもプライバシー重視を謳うものはあるが、運営者を信頼しなくてはならないという時点で情報を侵害されるリスクが高い「単一障害点」が存在していると言える。究極の個人情報である検査結果データを最高の秘匿性をもって管理するという姿勢は、実現すればプライバシーを中心思想に据える「WEB3.0(ウェブスリー)」ならではのプロジェクトといえる。
こうした技術が意味するのは、人まかせ、病院まかせではなく「自分の健康は自分で守る」という生き方をすることができるようになるということだ。これは「金融機関などの第三者ではなく、自分のお金は自分で守る」、という仮想通貨のもともとの思想に共通するものだ。
海外で類似するプロジェクトには、ハーバード大学医学部の教授で、ゲノム(全遺伝子情報)解析・編集おけるパイオニアの一人とされるジョージ・チャーチ(George Church)氏によるNebula Genomics(ネビューラ・ゲノミックス)がある。同プロジェクトは安価でゲノム(全遺伝子情報)全体の配列を解析し病気リスク等の診断を行った上、ユーザーがゲノム情報を医薬業界に共有して仮想通貨を得ることを可能にしている。
超高齢社会を支える開かれた「トークン経済」を作る
内閣府によると、日本では今から46年後、国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となる超・高齢化社会が到来すると推計されている。その時、日本の財政・福祉・年金・医療システムがこれを支えることができるかは未知数だ。だからこそ、医療関係者以外の人も積極的に予防医療に取り組んでいくことが大事だ。
また人口高齢化の問題は日本だけではく、欧米などの先進諸国や中国やインドなどの大きな人口を抱える国々にも共通する。ビル・ゲイツが血液検査を通した予防医療に着目し、これについて積極的に啓蒙活動を行うのも、グローバル規模での危機意識があるからだろう。
Lifeeが構築を進める新たな経済圏は、伝統的な医療業界の枠を超えた様々な人たちだ。
①個人ユーザー
②採血ステーション運営者(マッサージ、接骨、整体院、ジム、採血専門施設)
③医療・介護サービス提供者(病院、薬局)
④周辺サービス提供者(運動・栄養管理業、飲食店、食品業者、その他商業サービス)
⑤自治体、研究機関
⑥保険会社
⑦医療データを活用したアプリ開発者
これらの参加者たちが力をあわせて個人の健康管理をサポートしていくイメージだ。「開かれたエコシステム」を目指すMBS社はIT大手にありがちな「囲い込み戦略」はとっておらず、広い方面のプロジェクトや企業、そして研究機関等との連携に積極的だ。今後も他社との連携の中で新たな機能を追加していくだろう。
Lifeeの経済圏を駆け巡る「MBSC(MBSコイン)」はユーティリティートークンとして2018年12月26日に(BCEX Global」に上場しており、今後閉塞感のある日本の医療データ市場に風穴を開けることを期待したい。
参考資料:https://jp.cointelegraph.com/news/micro-blood-science-lifee-building-healthcare-token-economy
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Source: 仮想通貨情報局